かなまるコンサルコラム
今春の高年齢者雇用安定法の改正と企業の対応策
人材不足、少子高齢化、社会保障の負担増などを背景に高齢者の雇用を拡大しようとする流れが加速しています。その一つが高齢者の雇用・採用などを促す「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」です。
2021年に一部が改正されることも踏まえて、今回は高年齢者雇用安定法の詳しい内容と企業側の対応策などをご紹介します。
■高年齢者雇用安定法の概要
元々「高年齢者雇用安定法」は「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」として1971年に制定されました。1986年により高齢者の雇用を確保する必要性から、法改正が行われて現在の名称となりました。
高年齢者雇用安定法は、定年の引き上げや継続雇用制度などについて定められていて、企業の人事・財務など経営面に大きく関わってくる法律です。
2013年には法改定がなされ、企業は「高年齢者雇用確保措置」として、「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の定めの廃止」のいずれかを講じる必要性が出てきました。
■3つの高齢者の雇用確保措置(2013年改正版)
① 定年の引上げ
60歳から65歳に定年の年齢を引き延ばす措置です。企業が定年を65歳未満に定めている場合に求められます。
② 継続雇用制度の導入
現在勤めている企業で定年を迎えても、雇用者が希望すれば雇用を継続する制度です。現在と同じ雇用条件で働く「勤務延長制度」と、一度退職して雇用条件を新しく定める「再雇用制度」の2種類があります。
③ 定年の定めの廃止
定年自体を廃止することです。定年が65歳未満となっている企業が対象となります。退職のタイミングが把握しにくいことから実施している企業はわずかです。
■2021年に始まる改正の要点は?
そして2021年4月、新しく高年齢者雇用安定法は改正される予定です。2013年の改正時は「高年齢者雇用確保措置」でしたが、今回の改正によって「高年齢者就業確保措置」という位置づけとなり、国の企業へ求める姿勢が変化します。
その要点は2つあります。一つは努力義務となりますが、65歳から70歳に定年が引き上げられること。もう一つが雇用以外の措置を導入することを盛り込んだ点です。
1:65歳から70歳への就業機会の確保を企業の努力義務に定める
「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の定めの廃止」は2013年の改正とあまり変わっていませんが内容が少し異なります。
①定年の引き上げ
定年の引き上げはわかりやすいと思います。定年年齢を65歳から70歳まで引き上げることです。
②継続雇用制度の導入
継続雇用制度の導入を70歳までに引き上げることです。さらに、2013年の改正時は自社の「子法人」や「関連法人」など「特殊関係事業主」に限られていましたが、今回他の事業主も含まれるようになりました。つまり自社が関わらない企業への再就職も対象となったのです。
③定年の廃止
これは現行法と変わりません。
2:「継続業務委託制度」と「継続社会貢献活動制度」の選択肢が追加
上記3つに加えて、新しく「継続業務委託制度」と「継続社会貢献活動制度」が加わりました。詳しく見ていきましょう
④継続業務委託制度
高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度が導入できるようになりました。つまり、フリーランスや起業といった選択肢の確保です。
⑤継続社会貢献活動制度
高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度が導入できるようになりました。
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託する法人その他の団体が実施する社会貢献事業
c.事業主が出資(資金提供)等する法人その他の団体が行う社会貢献事業
これは有償のボランティア業務やNPO活動などが想定されています。ただし、特定の宗教の教義を広めたり、特定の公職の候補者を支援したりする事業は社会貢献事業に含まれません。
※「継続業務委託制度」「継続社会貢献活動制度」の導入に関しては労働組合の過半数の同意が必要となります(労働組合がない場合は、従業員の過半数代表者の同意が必要です)。
■企業に求められること
今回の「高齢者雇用安定法」の一部改正において、70歳までの定年延長は努力義務です。罰則規定はありません。しかし、いずれ現在の65歳定年制度と同じように義務となることが予想されます。対応が遅れると、法律違反となり企業名が公表されてしまう可能性があります。これは企業の社会的信用に大きく関わる事態です。
企業の労働力不足は深刻な社会問題となっています。そのため、高年齢者の雇用を促進し、社内で受け入れ体制を図ることは企業のブランディングおよび持続的成長には欠かせません。今後も様々な法改正が予想されることを踏まえて、早め早めに備えておく必要があります。
■高年齢者雇用安定法の対応はおまかせください
単純に高齢者の雇用を増やすと言って、なし崩し的に進めてしまうと様々な問題が起こりえます。確かに「ノウハウを持った社員がより長く活躍する」「培った技術を若い世代に残せる」といったメリットがあるのも事実です。一方で「資金繰りの悪化」「若手社員のモチベーション低下」など様々な課題もあります。
そのため、それぞれの企業の実状に合わせて「就業規則」「賃金・人事制度」「勤務形態」などを丁寧に見直していく必要があるのです。当事務所では過去の「高年齢者雇用安定法」改正時にも、「企業側の受け入れ体制の確保」「給与制度や人事制度の策定」などに取り組んできました。ぜひ今回の改正でお困りの事があればお気軽に相談ください。